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[関連ページ] キャッチボールにより力が生じる 中間子の交換頻度 ラザフォード散乱の3通りの取り扱いから 粒子交換で引力


化学結合でのキャッチボール

原子軌道の重ねあわせの場合に

 Hさん:量子力学と場の量子論は違うんだということが、最近ようやくわかったところです。ラザフォード散乱(の微分断面積)を量子力学で計算するところ(ボルン近似すなわち1次の摂動)までは、なんとか行けました。次は場の量子論での計算です。道はまだかなり遠そうですが、がんばってみます。[結果についてはラザフォード散乱の3通りの取り扱いから参照。]

 クーロン力をキャッチボールで説明するという企ては、私が読む程度の啓蒙書の類ではほとんど見たことがないので、非常に野心的で面白いテーマだと思っています。(Hさん、がんばってください。)

 クーロン力には手も足も出ないので、化学結合でのキャッチボールによる説明を調べました。量子化学では分子軌道というのをその分子を構成する原子の原子軌道の重ねあわせで表現します。原子軌道の波動関数を既知として変分法で分子軌道のエネルギー状態を求めると2つの値が出てきて、元の原子軌道より低い場合(結合性軌道)と高い場合(反結合性軌道)が導かれます。

 原子軌道の重ねあわせというのを別のいい表し方をすると、原子A、原子Bを考えて、Aに電子が偏っている場合とBに電子が偏っている場合の2つの極端な状態の重ね合わせと見ることができるので、電子を2つの原子の間でキャッチボールしているというイメージです。2つの状態を交換する(重ね合わせる)という量子力学の手法により、古典論では絶対に導くことができない低いエネルギー状態が導かれ、化学結合が生じます。[粒子交換で引力参照。]

 大雑把で不正確な説明ですが、ここまで書いてちょっと思ったことを最後に付け加えます。

 (1) 化学結合では結合性軌道と反結合性軌道が導かれますが、これがクーロン力では引力と斥力になるのでしょうか。
 (2) 4つの力(重力、電磁力、強い力、弱い力)といわれますが、化学結合の力はどれにも入らないように思うのですが違うでしょうか。(イオン結合は電磁力だと思いますけど。)

N

化学結合はすべて電磁力

 Nさん:クーロン力をキャッチボールで説明するという企ては、私が読む程度の啓蒙書の類ではほとんどみたことがないので

 キャッチボールというたとえは啓蒙書によくある説明なのかと思っていました。たしかに、具体的にどの本にキャッチボールのたとえが出ているのかといわれると、うーん、どの本に出てるんだろう。HTさんがくわしそう。

 Nさん:原子軌道の重ねあわせというのを別のいい表し方をすると、…電子を2つの原子の間でキャッチボールしているというイメージです。

 そうですね。分子結合(とくに共有結合)の理論に関しては、電子のキャッチボールというたとえで説明できると思います。

 一方,「クーロン力を光子のキャッチボールというたとえで説明する」というのはどういう理論に関してなのか、というのが目下の疑問です。

 Nさん:4つの力(重力、電磁力、強い力、弱い力)といわれますが、化学結合の力はどれにも入らないように思うのですが違うでしょうか。

 もし4つの力以外の力があったりしたら、一大事だと思いますよ。化学結合はすべて電磁力によるもののはずです。(量子化学のハミルトニアンには必ずクーロンポテンシャルの項が入っているはず。)そういえば,以前,分子間力(ファン デル ワールス力)を4つの力以外の力だと思っていた化学者に出会ったことがあります。分子間力のもとはクーロン力ですよね。

H

素粒子間での「キャッチボール」のたとえ:使用例

ブルーバックスの本に

  BLUE BACKS『クォーク』南部陽一郎著(1998年)P. 73〜74に「電子同士が光子をキャッチボールするのはクーロン型、質量を持ったボソンをキャッチボールするのは湯川型ポテンシャル」

  BLUE BACKS『質量の起源』広瀬立成著(1994年)p. 143に「光子のキャッチボール」

 以上2件ありました。詳細は本で確認してください。

E

湯川が盛んに使った

 湯川は『旅人』(1958)の中の最終章「苦楽園」で、キャッチボールの例えを以下に引用するように盛んに使っています。

 「例えば陽子と電子の間に、電気的な引力が働くということは、両者の間で始終、光子のやりとりが行われていることと解釈できる。この場合、光子は、陽子と電子の間のキャッチ・ボールの球の役目をしているのである。」

 「そこで、もしも核力の場を、陽子、中性子間のキャッチ・ボールと見直したなら、その球の役目をする素粒子は何であろうか。これが問題の焦点になる。」

 「ここで、候補者として、まず名乗りをあげたのは電子であった。…(中略)…すでにハイゼンベルクも、キャッチ・ボールの球は電子であろうという考え方を、発表していた。」

 「くわしく調べて見るまでもなく、電子を中性子、陽子間のキャッチ・ボールの球とする考えには、いくつも無理があった。第一、電子のスピンとか統計とかいう一番基本的[な]性質が、すでにキャッチ・ボールの球として不適当であった。」

 「私はこれ[フェルミのベーター崩壊の理論]を読んで、直ちに考えた。核力の問題も、これで解決できるのではないか。つまり、陽子や中性子が、しじゅう電子と中性微子の一対をやりとりしていると考えたらよいのではないか。キャッチ・ボールの球は一つでなくて、二つ一緒になっていると考えればよいのではないか。」

 また、Eさんからお知らせのあった南部陽一郎『クォーク』(講談社ブルーバックス、1981)の記述に私も気づいて、以下の抜き書きをしていたところです。

 「粒子に働く力の場を量子論的に説明するときには次のような考え方がよく使われる、例えば二つの電子の間の電磁力(クーロン力)は電磁場の量子、すなわち光子をやりとりすることによって生ずる。いわば電子同士がキャッチボールをし、光子がそのボールであるわけだ。光子の質量がゼロである(すなわち光速度で走る)ことは力の到達距離が長く、クーロン型(1/R)のポテンシャルであることに対応する。
 ところがもし質量をもったボソン、つまり重いボールでキャッチボールをしたとすれば、力は遠くへはとどかない。このときのポテンシャルは「湯川型」になる。数式で書けば exp(-μR)/R で、遠くへ行けば指数的に弱くなるものである。」

 「重いボールは遠くに届かない」という説明文の漫画がついています。野球のユニフォームを着た男が遠く――10m以上か――から投げた球は手前で重量投げをしている男の頭に当たって跳ね返っていて、重量投げの球は3mの目盛りのあるところにストンと落ちています。

T

水素分子、水素分子イオンの結合の場合

使用例がありますか

 Tさん:湯川は『旅人』(1958)の中の最終章「苦楽園」で、キャッチボールの例えを盛んに使っていました。 

 ご指摘ありがとうございます。湯川自身が使っていたとは、盲点でした。いやはやお恥ずかしい。それがキャッチボールのたとえの起源かもしれませんね。

 Eさん:BLUE BACKS『クォーク』南部陽一郎著(1998年)P. 73〜74に「電子同士が光子をキャッチボールするのは…」

 私はその本(第2版)は今回まっさきに見たはずなんですが、これまた見落としていたようです。

 しかしこれで、「クーロン力は光子のキャッチボールである」というたとえは古くからよく使われていたということが、再確認できました。

 化学のほうの「水素分子または水素分子イオンの結合は電子のキャッチボールである」というたとえも、文献中で確認できるのでしょうか。私は化学の本はあまり読まないので、これについては見たことがないのですが。

H

 [注:「キャッチボールのたとえ」ではないが、ハイゼンベルクは、水素分子イオンの結合を中性子・陽子間力の、水素分子内の力を中性子・中性子間力のモデルとしました。ハイゼンベルクのページ参照。(T)]

キャッチボールの図

ウエブサイトと『ファインマン物理学』に

 中間子キャッチボールの図で、何かよいのがないかと見ていたら、
  http://www.sf-fantasy.com/magazine/column/quantum/200410.shtml
に、π中間子がキャッチボールされる動画があって、うまく表現しているなぁと思いました。

 水素イオンや水素分子の説明では、陽子の周りに電子が雲のように存在している図も使われてるようで、例えば、ファインマン物理学 V巻 第10章「他の2状態系」に、水素分子イオン、核力、水素分子の説明があり、くわしくはまだ読んでいませんが、fig. 1 が載っていました[fig. 1 は本サイトへの掲載を割愛]。真似して、fig.2〜4 を描いてみました。

 水素分子イオンは、陽子と陽子の間隔が十分大きいときには、fig. 2 (1) のように左の陽子に拘束されている状態か、(2) のように右の陽子に拘束されている状態のいずれかが安定であり、 水素分子の場合も、fig. 3 のように別々の陽子に拘束されている状態が安定であるが、陽子どうしの間隔がつまってくると電子が交換される(左にいた電子が右に移動したり、逆に右から左へ移動して、キャッチボールされる)状態の方が、より安定であるといったことをイメージできそうです。

       fig2.jpg
fig. 2
fig3.jpg
fig. 3
fig4.jpg
fig. 4

 Sさんの「注釈付き翻訳」に掲載されているダイヤグラムからも、量子をキャッチボールしながら核子が時間的に変化する様子がイメージできるようになっていると思いますが、「ハイゼンベルクが、中性子を陽子と電子からなる複合体のように考えた」という説明について、電子雲のような絵もあれば、イメージがつかみやすいのではないかと思いました。

 ところで、電子をそのままπ中間子におきかえて、とりあえず描いてみると、fig. 5 のようになります。フェルミ粒子である電子の雲を、ボーズ粒子である中間子雲に置き換えていいのかどうかはわかりませんが。この図では、π中間子の雲が重なりあってキャッチボールされ、核力が生まれるというイメージになりそうです。

fig5.jpg
fig. 5

 ファインマン物理学 IV 第7章には、添付する fig. 6 のような図が載っていて、「実際中性子は、ある場合には、陽子とまわりをとりまくπ中間子の雲となるようにみえる」と説明されていました。「ある場合には」というのは、どういう場合かが疑問です。「π中間子の雲」が、核子のまわりにいつも存在しているというわけでなく、何か状態が変化したときにだけあらわれるということなんでしょうか? あるいは、陽子とまわりをπ中間子の雲がとりまくという「見方もできる」という意味なんでしょうか?[注参照]

U

 [注]中性子は時間的にある割合で、「陽子とまわりをとりまくπ中間子の雲」となっていると観測される、ということだと思います。(T)

fig. 5 は変な感じ

 ぼくには fig. 5 は何か変な感じがするのですが、皆さんはどうですか?

O

 そうですね。三つの異なる時間帯の様子を重ねて描いたような図ですね。

T

キャッチボール動画

 キャッチボール図を、簡単なアニメ画像作成ツール使って一応動画にしてみましたので、添付します。

U

pnキャッチボール動画__tmp.gif

高エネルギー研のオンラインニュースの動画

 2007年1月11日付け高エネルギー研のオンラインニュース(http://www.kek.jp/newskek/2007/janfeb/yukawa.html)に「湯川博士生誕100周年〜 原子核をつなぎとめる中間子 〜」という記事があります。陽子と中性子が中間子を「キャッチボール」する動画が挿入されていますが、陽子と中性子が上方へ飛行しているのは奇妙です。時間経過のつもりでしょうか。動画では空間的に時間を示す必要はないと思います。

T

新しい説明の検討を提唱した論文

ヨーロッパの物理教育誌に

バスケットボールやフットボールによる斥力のアナロジーも引用

 クォーク・グルオンの相互作用が強い相互作用の基本と分かったいまでも、パイ中間子の交換は核力説明の方法としてよさのあることが見直されるべきだという趣旨の論文 [1] [ヨーロッパの物理学協会 (IOP) 発行の物理教育誌に量子物理学教育特集論文として掲載]を見つけました。その論文は、バスケットボールやフットボールのやり取りによる斥力のアナロジーも引用していますが、これらキャッチボールの例えはよくないと批判し、これに代わる高校生までのレベルに適した説明を、いまや考えるべきときだ、と述べています。湯川の推論がなぜパイ中間子発見に有効だったかという、私が抱いていた疑問にも関係しています。12ページにおよぶ長い論文ですが、次の定例会で紹介できれば、と思っています。[注:2007年5月定例会で前半を紹介。6月定例会で残りを紹介の予定。]

 この論文に引用されている文献 [2] には、野球のキャッチボールでなく、バスケットボールの投げ合いが、また、[3] にはフットボールの投げ合いが、量子交換で斥力の働く例えに使われているようです。

 [1] P. Dunne, "A reappraisal of the mechanism of pion exchange and its implications for the teaching of particle physics." Physics Education 37 (3) 211 (2002). 次のURLからPDFがダウンロードできます。
   http://teachers.web.cern.ch/teachers/archiv/HST2002/feynman/Pion%20exchange.pdf
 [2] The Institute of Physics Particle Physics Project "Teachers Guide" ch. 7 (1992).
 [3] J. Allday, "Quarks, Leptons and the Big Bang ch. 11 (Bristol, Institute of Physocs Publishing, 1998; 2nd ed. 2002).

T

キャッチ棒で引力を

まずは巨大ボール

 キャッチボールでは斥力しか生じない,ということが以前から問題になっていました。ひとつの解決策として、引力を生じさせるためには巨大ボールを考えればよい,ということを[07年]4月例会で提案させていただきました。(点としての古典的ボールではだめだということです)

「A君が魔法で巨大ボール (自分たちをすっぽり包み込むくらい大きい) を出現させて,前方に投げる。
 A君の後方にいるB君がボールを取り、魔法でボールを消し去る。」

 これで,A君B君にはそれぞれ引き合う向きの運動量が生じます。実際,計算上も媒介粒子は平面波 (空間的に広がっている) で表されるので,巨大ボールというアイデアはわるくないと思うんです。

 というような話をしていたら,Hさんから「やり投げにすればよい」という意見があり,なるほどと思いました。巨大ボール出現消滅は実演できませんが,やり投げなら実演できます。

「A君がじゅうぶん長いやりをもち,B君と反対の方向になげる。
 A君の後方にいるB君が,投げられたやりの,しっぽをつかむ。」

 キャッチボールならぬ“キャッチ棒”ですね。

H


Tag: キャッチボール 粒子交換 例え ファインマン


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最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 「キャッチボールの図」の項中、『ファインマン物理学』の巻数が私に届いたメールでは文字化けしていました。Uさんあるいはお気づきの方、入力して下さい。 -- T 2007-04-26 (木) 08:43:44
  • 『ファインマン物理学』の巻数を1カ所入れていただいたようですが、その文字ではマックで文字化けして「(労)」と見えます。ローマ数字ならば、1文字になったものを使わないで、I を続けて書くとか、I と V を並べて書くとかして下さい。なお、下の方にもう一カ所『ファインマン物理学』があります。 -- T 2007-04-26 (木) 22:25:02
  • ファインマン物理学の件修正しました。 -- いわさき 2007-04-27 (金) 00:14:47
  • いわさきさん、ありがとうございます。IVを一つにしたものは、マックでは「(協)」と見えていました。これで、先のメールの湯川著作集についていた I〜III と合わせて、I〜V の対応関係がわかりました。 -- T 2007-04-27 (金) 07:57:10
  • 図を入れてくださったのは、いわさきさんですか。ありがとうございます。fig. 4 が一つ抜けているようです。陽子同士が近づいて、その間で電子雲の密度が高くなっているものです(最終の図、fig. 5 に似ていますが)。 -- T 2007-04-27 (金) 22:30:32
  • 「高エネルギー研のオンラインニュースの動画」の項に私の思い違いのところがあり、その部分を削除しました。 -- T 2010-01-10 (日) 15:26:56
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Last-modified: 2010-01-10 (日) 15:24:32 (2725d)