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『日本科学技術大系』によれば

多くの名からメゾトロン、そしてメソンへ

 湯川が中間子論を発表してから中間子がどのような名で呼ばれていたのかを『仁科芳雄往復書簡集』に収められている書簡の中で追っていると、参考文献として、

 「中間子という名前の確定まで」『日本科学技術大系 13 物理科学』日本科学史学会編、第一法規出版(1970)、pp. 284-286

が、挙げられていましたので、さっそく図書館で調べてきました。

 「中間子という名前の確定まで」には、2編の資料が引用されており、1編は、『岩波講座 物理学 月報』第3号(昭和14年2月)で、「名前の問題のほか実験との交渉にも言及」しています。以下に少し引用します。

   『メゾトロン』の名称確定に関連して 玉木 英彦
 湯川博士によって理論的に予言され、アンダーソン等によつて宇宙線の霧箱写真中に見出された新粒子に、此の程遂に確定的な名称が与えられた。新粒子は一昨年来世界の学界の注目を惹くとともに忽ちU粒子、湯川粒子、重い量子、重い電子、バリトロン、ダイナトン、ペネトロン等、沢山の名前を貰つて了ひ、各国の学者が各自思ひ思ひの呼び方をする始末になつたので、ボーア教授は国際的な公式の名称の選定を提唱し、湯川博士の名に因んだ『ユーコン』を提案した。その後アンダーソン等が『メゾトロン』の名を提案したので、ボーア教授は昨年末コペンハーゲンに開かれた宇宙線問題に関する会合(オーヂエ、ブラッケット、フェルミ、ハイゼンベルク、ロッシ等出席)で相談し、其の結果『メゾトロン』を採用することに衆議一決したのださうである。『メゾトロン』は『中間の粒子』の意味があつて、質量が陽子と電子の中間であうといふ理論的にも実験的にも基本的な特質をよく表はす公平なる名前であるために選ばれたのであらう。名前が決まつたから俄かにどうといふのも変な話かも知れぬが、新粒子もこれでいよいよ電子とか陽子とかの様な古くから知られてゐる粒子に伍して一人前の物理的対象になつたといふ感じがする。

 解説によると、その後 Mesotron の -tron という語尾はおかしいとの指摘(ダーウィン)があり、以来 Meson と呼ばれるようになったとあります。

 もう1編の資料は、『科学』第9号第3号(昭和14年3月)の「術語検討」欄への読者からの投稿文で、以下に全文を紹介します。

   Heavy electronに対する訳語の一提案
 湯川博士によりて其の存在が予言せられた Heavy electron を日本語で如何に呼ぶべきかかが問題である。今後しばしば用ひられるであらうから今の内に適当な名称を決定して置くことが便利であらう。之迄 ‘重い電子’ ‘U-粒子’ などと呼ばれ或は単に ‘新粒子’ と称せられて来たが名称は唯一つにする方が混乱を防ぐ点からも宜しい。
 外国でも余り名称が多過ぎて困ってゐる様である。例えば dynatron, penetron, barytron, heavy electron, yukon, x-particle 等である。そこで C. D. Andeson 及び S. H. Neddermeyer [1] は新しく ‘Mesotron’ なる名称を提案してゐる。恐らくこの提案は一般に採用されるであらう。既に P. M. S. Blackett [2] の如きも採用してゐる。 ‘mesotron’の意味は intermediate particle といふことで其の質量が重い粒子なる陽子と軽い粒子なる電子との中間にあるといふ事実に基いて命名されたものである。そこで私は今後この新粒子に対し ‘中間子’ と命名せんことを提議するものである。
 1月26日
 高知高等学校 篠崎 長之
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[1] Nature 142 (1938). 878.
[2] Nature 142 (1938). 992.

 湯川自身は、新粒子の名称について昭和13年(1938年)12月21日付けの仁科に対する書簡の中で、名称についてどういう名称に落ち着くのか関心のあることを書いています。また、雑誌に「重電子の生涯」という原稿を渡したところ、印刷されてみると「湯川粒子の生涯」と変えられていて、呆れてしまったとも書いていますし、追って12月24日付けの仁科に対する書簡では、Nature に Neddermeyer が mesotron を使っているのを見たことが、日本名をどうするか仁科に考えて欲しいとも書いています。湯川自身、新粒子に対して自身で命名したいという思いがないでもなかったようにも思えます。しかし、湯川、仁科とも研究に忙しく、気にはなっていたが、名前を考える暇がなかったということでしょうか。

M [01697] (100220)

ダーウインのこととベーテの論文

 M さんは中間子の名について興味深い調査をされましたね。「Mesotron の -tron という語尾はおかしいとの指摘」のところにダーウィンという名が出て来ていますが、これは進化論で有名なチャールズ・ダーウィンの孫の物理学者、チャールズ・ゴルトン・ダーウィン(1887−1962)だと思います。以前私がガモフの本で見つけた話では、ハイゼンベルクの父も、その語尾がおかしいといったとのことでした。

 なお、中間子論50年国際シンポジウムの閉会の言葉を述べた R. H. Dalitz が、その言葉の中で、 H. A. Bethe が、中間子に対して考えられた名前の歴史を論文 Phys. Rev. 57 (1940) p. 260 中の p. 262 にまとめていると述べています。その記述も参考にしてはと思いますので、S さんのほうでコピーを入手していただければ幸いです。

T [01698] (100220)

ミリカンとアンダーソンのかかわり

 ベーテの論文を湯川会HPの会員ページに掲載しました。

 ミリカンとアンダーソンの間にあった裏話は以前書いたことがあります。見ていただければうれしいです。

http://www.sci-museum.kita.osaka.jp/~saito/job/writing/utyu/mesotoron/mesotoron.html

 また、この件に関して、ミリカンがボーアにあてた手紙もHPに載せました。

S [01699] (100220)

ベーテの論文

バーバの論文を引用

 S さん、Bethe が中間子の名称に触れた論文を早速、湯川会HPの会員ページにおいていただきありがとうございました。それには、heavy electron という名称だけは、スピンや統計が electron とは異なるから、絶対に避けるべきだ、などの論を展開していますね。そして、mesotron から tr を取り除くべき言語学的理由として Bhabha の Nature 誌 1939年の論文が引用してあります。これは私がアクセス出来ましたので、Bhabha_1939.pdf の名で、Yahoo!グループ:research_yukawa ブリーフケース http://groups.yahoo.co.jp/group/research_yukawa/files/ に置きました。

 Bhabha の論文では、最初のページに論文題名の脚注として tr は不要ということが書いてあります。ダーウィンやハイゼンベルクの父親と同じ見解です。

T [01700] (100221)

ダーウィンの論文

器械に -tron が使われており、粒子には -tr をつけないのがよいと

 以前、ダーウィンの論文がパイスの本に引用されていたと、私自身メールに書いていたのを忘れていました。Nature 143, p. 602 (1939) で、バーバより少しあとです。題名は "Use of the Termination -tron in Physics" です。ギリシャ語からの語源的理由でなく、器械についてサイクロトロン、サイラトロンなど、-tron が使われているので、粒子は tr を入れないようにするのがよいのではないかとの論です。ポジトロン(陽電子)、ネガトロン(電子の別名)の代わりに、ポゾン、ネゴンがよいのではないかとも。これは採用されていませんね。

T [01702] (100221)


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Last-modified: 2017-07-09 (日) 18:25:58 (105d)